2010年07月12日

S川作品『ヒバゴン逮捕近し〜千の風〜』

   S川作品『ヒバゴン逮捕近し』

 俺の原付がマンションのヒバゴン(犯人のあだ名)に破壊された事件(『原付破壊の被害届け』http://cost-off.seesaa.net/article/156038074.html
をS川にメールすると、その返信が小説風になって返ってきた。
以下、S川のメールより。

 『マンションのヒバゴン逮捕近し』
「大河ドラマ『龍馬伝』風に言うならば…
 ヒバゴンがお縄を頂戴したのは、平成二十二年のことじゃった(笑)
 逃走及び罪証隠滅の恐れがある場合は、逮捕だが、逮捕はあくまで強制捜査で、逃走及び罪証隠滅の恐れがなければ、逮捕しないという任意捜査の原則があるから、ヒバゴンが逮捕されるかどうかは分からない。
 逮捕されれば、48時間以内に検察庁に送致される。送致しないときは、釈放。
 一方、逮捕されなければ、任意捜査で、呼び出しに応じて取り調べを受ける感じだが、時間的制約はとくにない。
 とは言え、ヒバゴンがお縄を頂戴するのも近いだろう…。

 ドアを蹴破って『御用だ、御用だ…』あるいは、『FBI!FBI!』と突入す
るなら、ヒバゴンは小便を漏らすだろう(笑)Xデーは近いw」


   『ヒバゴン〜千の風〜』

彼(ヒバゴン)の胸の内には、金属のような重みがあった。
それは、重圧であり、焦燥であり、煩悶であった。
彼の心臓には、どろりとした金属の液体が纏わり付いていた。

何にもなれない彼は、周囲の者たちに見下されてきた。
彼は、毎日、毎日、自転車で、くだらない仕事場に向かう。
つまらない仕事をたんたんとこなすだけの毎日。
街を歩けば、華やいだカップルがイチャイチャとしている。
彼は、羨む自分をひた隠し、そして、嫉妬に狂った。

彼は、職場でも私生活でも、話せる異性がないのは元より、話せる友さえもなか
った。
彼は、皆に見下され、軽蔑され、普段は周囲の人たちの眼中にさえ入らない存在
だった。

俺は、何のために生まれてきたのだろう…。

彼の胸の内に、この疑惑が頭をもたげる。
彼は、この疑惑に対峙するといたたまれなくなり、危うくなる。
彼は、我慢のしすぎだったのかも知れない。

そんな彼が仕事を終えて、帰宅すると、駐輪場に立派な原付きバイクが止めてあ
った。
彼のくたびれたポンコツ自転車とは雲泥の差だった。
嫉妬に狂った彼は、その刹那、原付きバイクを破壊する暴挙に出たのだ。
彼は気持ち良くなった。
暗雲が立ち込めていた心が晴れ渡るのが分かった。
日頃の鬱憤が消え失せ、爽快の中に彼は報われた気がした。
彼は、雄大な大海原へ航海に出る船乗りのような勇気が沸き上がるのを覚えた。

僕は強い…。

彼は確信した。

彼は意気揚々と部屋に戻り、その晩は枕を高くして寝た。

しかしながら、後日、彼の立場は一変した。
天変地異が起こったのだ。
彼は、雄大な大海原へ航海に出る船乗りから、警察官から逃れるばかりの逃走犯となり下がったのだ。

僕は強い…と確信した彼はいま、怯えている。
彼は、日頃の鬱憤を晴らすのと引き換えに、自身の一生を棒に振ったのだと気付
いた。

前科一犯。

この言葉が脳裏に浮かんだとき、彼は、気付いた。
気付いたのだが、時既に遅しであった。
彼は、取り返しのつかないことをしてしまったと思った。
彼が仕事場から部屋に帰ると、私服警官らしい人物がウロウロとしている。
彼は、脱兎の如く、その場から逃走した。

逃走したものの、自分をかくまってくれるような友人もいない。
彼は、自分がいかに孤独で、寂しい人生を歩んできたのか痛感した。
一旗あげようと上京してきたが、パッとしない毎日を送っていた。
華やいだ大都会東京に行けば、自分の人生も華やぐ…そんな気がしていた。

しかし、いまの自分は、警官からひたすら逃げ回るだけの犯罪者。
海外に高飛びしようかとも真剣に考えたが、そんな資金は持ち合わせていない。
財布の中に、数百円分の小銭があるばかりだ。

自首しようかとも考えたが、そんな勇気はなかった。
自首する勇気も逃走する勇気もない彼は、ただただ空き地の土管の中にうずくまるだけであった。

彼は、土管の中で夜を迎えた。
枕さえもない土管の中で、枕を高くして寝たあの晩が懐かしかった。

彼は、夢を見た。
彼は、成功して、華やいだ風に吹かれていた。

両側には、綺麗な姉ちゃんが居て、彼は、悠然と歩いていた。
職場の元上司が、僕に頭を下げて、媚びを売る。
あれだけ威張り散らしていた元上司が、いまではこんなにも腰が低い。

僕は、得意げに、彼の頼み事に耳を傾けた。
多忙な僕だが、我ながら実に寛大だと思った。
元上司の願い事を一通り聞いてやった後で、僕は、『それは…ムリ』と一蹴してやった。
元上司の泣きべそをかいた顔は痛快だった。

僕は故郷に帰省した。

親兄弟、同級生が、僕の帰省を心から祝福してくれた。
僕は、大物になったのだ。
僕の存在に皆が注目する。
僕の一挙手一投足に皆が一喜一憂する。

それだけの力を僕は手に入れたのだ。
僕を大歓迎する下々の中に、のり子ちゃんを見つけた。
彼女は、僕の方を恥ずかしそうに見ている。
恥ずかしそうに僕を見ている彼女の瞳は、まさしく恋をする乙女の瞳であった。

彼女は僕に恋をしているのだろう…。
彼女は、クラスのマドンナ的存在であり、僕の初恋の相手だ。
当時の僕は、未だ能力が開花していなかったから、当然、彼女に相手にされるこ
ともなく、僕の片想いで終わってしまった。

終わってしまった初恋が、いま僕の力によって始まろうとしているのを僕はひし
ひしと感じていた。
僕は地元の祝福を受けながら、悠然と歩いていた。
そのとき、のり子ちゃんが、人垣を掻き分けて、僕のところに駆け寄ってきた。

僕は、照れるのを隠すように、『やぁ、久しぶり。のり子』とごくごく自然に、
そして、少しすましながら言った。敢えて『のり子』と呼び捨てにしてみたが、
少々キザだったかなとも思った。

のり子ちゃんは、頬を赤らめながら、少しはにかみながら、『久しぶり』と言っ
た。
『覚えていてくれたんだ』と言った彼女の瞳は、もはや潤んでいた。

彼女の中に、昔と何一つ変わらぬ清楚さと純情さを僕は見出だした。
彼女は、手紙のようなものを僕に差し出してきた。

恋文…。

僕は確信した。

僕が、彼女の手から、手紙を受け取ると、彼女は『後で読んでみて』とだけ恥ずかしそうに俯きながら言い残して、走り去っていった。

僕は、彼女の後ろ姿を見送りながら、可憐だと思った。
彼女の手渡した手紙は、可愛らしい柄の施された封筒に入っていた。

女の子らしい…と僕は思った。

恋文に違いないこの手紙こそ、彼女の僕に対する全身全霊の愛がしたためられている。
おそらく彼女は、僕へ恋文を渡すため、近所の文房具屋に並ぶ封筒の中から、彼
女が可愛らしいと思う封筒を一生懸命選んだのだろう。
そんな彼女をいじらしくも思った。

僕は、いよいよ封を切って、彼女の僕に対する想いを読んだ。

可愛らしい柄の封筒からすると、中の便箋もさぞかし可愛らしいのだろうと予想していたのだが、僕の予想は見事に裏切られた。

柄のない質素な便箋であった。
質素な便箋でも構わない。
僕は、早速、本文を読みはじめたが、女の子らしい字体ではなく、何やら重厚な字体が並んでいたので驚いた。
のり子ちゃんは、書道部だったかなと思いながら、のり子ちゃんからの恋文を読みはじめた。

タイホジョウ?

バツジョウ…ケイホウニヒャクロクジュウイチジョウ?

ザイメイ…キブツソンカイザイ?

た、た、逮捕状!?

え?何で?な、な、な、何で、のり子ちゃんが?のり子ちゃんって、警察官なの?

ぎゃあああああ…

…と、叫んだ次の瞬間、ゴツンと猛烈に頭蓋骨を強打した。

彼は、薄暗い土管の中で、頭を打ったのだった。
夢だった。
彼は、奇妙な夢から現実世界へと引き戻されたのだ。

さてはて、どうしたものか…彼は、おでこのたんこぶを撫でながら、途方に暮れ
た。
いつまでも土管の中に隠れている訳にもいかない。
彼の耳には、夢の中の地元の人たちの祝福する大歓声が残っていた…。

そうして、いま土管の中は、ひっそりと静まり返っている。
静寂の魔物に喰われそうな錯覚からか、彼は、土管を抜け出し、走り出した。
大声で叫びながら、夜の街を走り抜けた。

大声で叫ぶだけでは飽き足りず、彼は、衣服を脱ぎはじめた。
衣服を脱ぎ捨て、全裸のまま、大声で走り抜ける。
その様は、颯爽と呼ぶに相応しかった。
彼は、夜更け過ぎの街を駆け抜けた。

通行人は、彼を気狂いと確信した。
ある女性は、彼の全裸に悲鳴を上げた。
彼は、通行人たちの冷ややかな目も好奇の目も気にならなかった。

彼は、千の風になっていたのだ。

彼の後ろから、交番員が追い掛けているが、彼には追いつけない。
なぜなら、彼は、千の風になったからだ。
彼は、千の風になった。


彼は、どこまでも優しく、人の隙間をすり抜けてブランコを揺らす。
そうして、人混みの喧騒をすり抜け、海に出たとき、横から来た大型トラックにはねられた。

壮絶な衝撃の後で、彼の肉体は宙に浮いた。
宙に浮いた彼の体は、海へと舞って逝った。
キャハハハハハハ…と笑いながら海へ舞っていった。
彼は気が触れていたのかも知れない。

罪深き彼は、全裸のまま笑いながら海の藻屑と化していった。
あるいは、海に落ちた流れ星を喰らいながら、いまも生きているのか…
司法官憲の効力の及ばぬ果てまで逃避したのか…
下人の行方は誰も知らない。

   完

(この記事のアップ日時は2010/07/11.22:05)

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