2008年12月11日

S川版キモト伝説「牡蠣」前編

 キモト伝説を書くきっかけとなったのはS川からの長いメールだった。
そこには、S川の書いたS川版キモト伝説とも言うべき小説「牡蠣」が書かれていた。
 俺のキモト伝説との一番の違いは、俺のキモト伝説が俺やS川からの目線であるのに対して、S川版キモト伝説「牡蠣」ではキモトが主人公でキモト目線(一人称の僕はキモト)で書かれていた。
 あまりに面白さにすぐさまブログにアップしょうと思ったが、いきなりアップしても俺とS川、俺から話を聞いてる議長以外にはキモトというキャラクターが知られておらず、なんのこっちゃかわからないという問題があった。
 そのため、キモトというキャラクターを知ってもらうためにキモト伝説を書き始めた。キモト伝説は全20話の予定で、現在は7話分しか書いてないが、もう大体キモトという人物をわかってもらえたと思うので、キモト伝説番外編としてS川版キモト伝説「牡蠣」をアップする。
 
 S川版キモト伝説「牡蠣」は、携帯メールで数回に分けて送られてきたので前編・後編に分けてアップ。それぞれ後半部分は追記にあるので「続きを読む」をクリックしてください。途中の伏字処理や注釈は俺。

〜〜以下、S川のメールより引用〜〜

予告『乞う、ご期待!』

 九州の某大学で、懸命に生きる風変わりな学生を風刺的に描きながらも、未来と過去の狭間で揺れる主人公の虚栄心、自己欺瞞、孤独、出生、学問、恋愛、宗教などを題材に、人間の本質を鋭く抉る戦慄に満ちた青春長編小説。

 題して、『牡蠣』。乞うご期待!

〜〜
        『牡蠣』前編

 軌道修正は完了した。
僕は、ついに返り咲いたのである。(注@)
心技体は充実し、一点の曇りなく躍動する。
波瀾万丈の荒波を蹴散らせ、漸く順風満帆な航路を進みだしたのである。
僕の眼前には、まばゆいくらいに輝ける未来が、広大な大海原のように広がるばかりだ。

そうして、僕は、未だこの地位に甘んじることなく大躍進すると決めている。
何人たりとも僕の大躍進を止める事は出来ない。
こう断言するのは、根拠無き自惚れからではない。
これは確固たる事実として裏付けられた真理である。

何故なら、僕は、過去幾多にわたって、僕の行く手を阻む輩を悉く退治してきたのだから。
彼らは、僕の才能を見くびっていたのだ。
大誤算である。
致命的と云う外ない。
当然、彼らに僕を止める事は出来なかったのだ。(注A)
あるいは…と、僕は、その他の可能性について検証を試みた。

成る程、多角的な視野を持つ事は、成功の為の必須の条件であると啓発文庫にあった。
そう、僕は、自己研鑽に余念がない。
あるいは、彼らは、僕の才能を見い出していたと仮定した。
僕の才能を見い出した上で、確約されたる僕の成功を嫉妬したのだ。

だとすれば、それも人情ではある。
寛大なる僕は、彼らに情状の余地を見い出してくれた。
しかし、聖職に従事する教師たるものが、前途有望なる教え子の成功に嫉妬し、その邪魔を企てて良いと云う法もあるまいから、やはり到底許されぬ暴挙であると言わざるをえない。

成る程、文○なる馬鹿な三流私立高校の教員に堕在している程度の人間なのだ。
そもそも僕とは、格が違ったのだろう。
別次元に棲息する住人なのだから致し方あるまい。
もはや、軌道修正が完了した今、どうでもよいことだ。
僕は、将来大物になるべき最重要人物なのであるから、小さな過去にもこだわらなければ、雑魚にも用はない。
僕には、輝きに充ち満ちた未来があるばかりなのだから。
僕が、彼らの大罪を赦したとき、丁度、無人駅に電車が到着した。
僕は、颯爽と乗り込む。

僕は、座席に腰掛けると、客室内を鑑識した。
少ないけれども何人かの乗客がある。
真向かいの座席には、サラリーマン風の男が一人座っている。
冴えない。
安月給で、こき使われて、くたびれ果ててしまっている。
僕は、未来の僕と正面のくたびれた男を比較して、憐憫の情を催した。
神様は不公平だなと彼を慰めてやろうかと思ったくらいだ。

しかし、生憎と僕には慰めることは出来ない。
正確に云えば、慰める暇がないのだ。
何故なら、僕は多忙だからである。

客室の片隅には、学生服を着た男子高校生がある。
窓の外を眺めて、ぼんやりしているばかりである。
気の毒に、あまり賢くはなさそうだ。
この茫然とした学生君が、将来、こういうサラリーマン風男になるのだろう。
憐れなる彼らは、僕には頓と無関心だけれども、僕の正体を知れば、瞬時に仰天してしまって、たちまちのうちに平伏すに違いない。
こう考えながら、時期を見計らって、僕は行動に移った。

〜〜
注@:キモト氏は、高校受験に失敗しており、納得いかない高校に進学したが、奇跡的に大学受験は成功した。それゆえ軌道修正したと自負していた。

注A:大学受験の際に高校の教師から、「おまえにはその大学は無理だから進路変更しろ」と指導を受けたが、強行受験し成功したため高校教師が妨害したと話していた。
〜〜
続きは→続きを読むをクリック

僕は、鞄からうやうやしく本を取り出す。
自然科学の専門書である。
題名は、ちょっと…言えない。
この僕が、図書館を最大限有効活用しているのは言うまでもない。(注B)
かなり分厚い。
能ある鷹は爪を隠すと云うけれども、たまには、爪を光らせて、威嚇する必要があることを僕は経験則上心得ている。

平凡人は、膝に本を置いて読む。
そうして、そのほとんどが、低俗な漫画本であったり、薄っぺらな文庫本だったりする。
しかしながら、僕の場合は、違う。
僕は、選ばれし者であるから、高尚な専門書、無論、分厚いのを顔の前に掲げて、姿勢を正して読むように決めてある。
気取っている訳ではない。
僕の一挙手一投足が、学術的なのだ。
これが、僕のやり方である。

僕はおもむろに頁を開く。
間もなくもしないうちに、正面のサラリーマン風男が、おやっと僕の方を見た。
見てる、見てる。
僕は、専門書を読み耽るときでさえ、周囲に細心の注意を払っている。
サラリーマン風男の予想通りの挙動は、僕を愉快にした。
僕が爪を光らせると、彼はたちまち威嚇されたのだ。
思惑通りである。
顔が綻ぶのを戒めながら、今度は、さりげなく学生君の様子を伺う。
この学生君は不憫である。
相変わらず、茫然としているばかりで、僕の爪が光っているのに気付く気配もない。

暖簾に腕押し、糠に釘では、ちっとも面白くない。
反応が起こらなければ、実験は失敗である。
折角の気分が台無しである。
あんまりぼんやりしていると、僕の強靭な爪に寝首を掻かれるぞと脅かしてやろうかしらと思った。
ちゃんと勉学に励むように忠告してやるのも、人生の大先輩としての責務か知らんとも考えた。

しかし、脅かすのも、忠告するのもやめにした。
何故なら、僕は多忙だからである。
選ばれし僕には、寸暇を惜しんで勉強する義務があり、権利がある。
学生君も、あと三十年ほど人生の修行を積めば、サラリーマン風男の如く、能ある鷹の威嚇する爪の光に気付くようになるのだろう。

そう考えていると、電車が止まった。
次の駅へと到着したのだ。
僕の下車する駅は、まだまだ先である。
僕は、本を掲げたまま、乗降口の様子をそっと伺う。
乗車してきた乗客は、僕の爪を見るなり、悉く畏怖するのである。
畏怖するに決まっている。
否、畏怖するべきなのだ。

老婆が乗車してきて、僕の傍に腰掛けた。
僕は、聖人君子であるから、満席の事態では、高齢者に席を譲ると決めているが、満席でめないから、僕が動くまでもない。
早速、老婆は、僕の爪に気付いて、感心しながら、僕を見ている。
流石は、だてに年をとってはいないようだ。
亀の甲より年の功とは、よく言ったものである。。
ぼんやりしているばかりの学生君も少しはこの老婆を見倣いたまえと思った。
それにしても、視線を感じるのは、気持ちが好い。
「感心、感心、学生さんな」
ほどなく老婆が尋ねてきた。

僕は、姿勢を正し、本を掲げたまま、顔だけを老婆の方へ向けると、礼儀正しく「はい」とだけ答えておく。
能ある鷹は爪を隠すのだから、こちらから名乗るまでもない。
老婆の方から、在学校を尋ねてくるに相違ない。
そうしたら、答えてやろう。。
ひけらかす積もりは毛頭ないが、隠し立てする理由もない。
待ち伏せていると、案の定、「何処の学生さんな」と老婆が尋ねる。
僕の口許は、老婆も気付かぬ程度、ふっと笑った。
即答するのは、あまりにも品がないから、しばらく勿体振ってから答える。

愈々僕が答えようとした途端、老婆は、とんでもない事を口走った。
「○徳大じゃろか。うちの孫も○徳大に往きよります」
大失言である。
不躾と云う外ない。
僕は、唖然とした後で、むらむらと不愉快になった。

いやしくも熊本県下最高等の教育府である国立○○大学生たるこの僕を捕まえて、よりによって○徳大学如きの阿呆学生風情と見間違うなんて、無礼も甚だしい。(注C)

まして、この老婆の出来の悪い孫と同類に勘定された果てには、僕ともあろう男は到底報われない。
これは威信に関わる由々しき問題であるから、「○大です」と毅然として言い切ってやったら、精々した。
精々した後で、感情的になってしまったせいか、ほんの少しばかり声を大にしてしまったなと思った。
老婆は、ほぉと感心したきり、それ以降、話しかけてくることはなかった。

成る程、この僕に畏れ入ったに違いない。
そうして、僕は、気付いている。
僕が老婆に○大生を名乗った直後、ぼんやりとしているばかりの学生君が、僕の方をちらりと振り返ったのを、僕はちゃんと見逃さなかった。
茫然としているばかりの学生君ですら、○大を耳にすれば、はっと振り返るのである。

そうして、その視線の内には、羨望の色が確実に在った。
そう、僕は、泣く子も黙る天下の○大生なのである。
僕は、再び専門書に目を戻すと、密かにほくそ笑んだ。

歴史は、旧制○○高等学校時代にまで遡る由緒正しき熊本県下最高等の教育府である。
勿論、国立。
そうして、僕はそこに籍を置く男なのだ。
籍を置くばかりではない。
その中にあっても、飛び抜けた存在なのだ。
模範○大生であると言っても過言ではあるまい。

僕は、そっと客室の中を見渡した。
うだつの上がらぬサラリーマン風男と茫然たる学生君、そうして忌々しい失言老婆。

おそらくは、この客室の内で、最高等教育の恩恵を授かるべくして選ばれし者は、僕一人であると確信した。
確信したところで、電車は次の駅へ到着した。

到着すると、乗降口から、ぞろぞろと乗客が乗り込んでくる。
ようやく中心地へ近づいたなと考えたとき、僕のアンテナがびびっとなった。

       「牡蠣」後編につづく
http://cost-off.seesaa.net/article/111082639.html

〜〜〜
注B:キモト伝説3-1「図書館の地下」を参照のこと。
http://cost-off.seesaa.net/article/110234420.html
注C:この大学の付属高校がキモトの出身高校である。
それ以外の注釈:キモトは異常なまでに学歴にこだわっており、大学内でも上のような発言をして、S川から「キモト君、○大○大って言うけど、ここにいるのみんな○大生だよ」とツッコまれていた。

〜〜〜
関連記事:S川作品『ヒバゴン逮捕近し〜千の風〜』
http://cost-off.seesaa.net/article/156071784.html
キモト伝説「ノーベル賞2個取る!」
http://cost-off.seesaa.net/article/106256000.html
キモト伝説2「ドイツ語の単位」
http://cost-off.seesaa.net/article/106485722.html
キモト伝説3「彼は使えるよぉ」
http://cost-off.seesaa.net/article/106746075.html
キモト伝説3-1「図書館の地下」
http://cost-off.seesaa.net/article/110234420.html
キモト伝説4「うぃんうぃ〜ん」
http://cost-off.seesaa.net/article/109764817.html

キモト伝説5「キモトのオシャレと最後の砦」
http://cost-off.seesaa.net/article/110184238.html
キモト伝説6「うるさい黙れ!」
http://cost-off.seesaa.net/article/110149550.html
『Ouch !、R2、S川版キモト伝説非公開ver.1.2』
http://cost-off.seesaa.net/article/106177456.html

<S川作品・関連記事>
S川話「軍事衛星が狙ってる」
http://cost-off.seesaa.net/article/100447961.html
S 川話「殺人事件狂騒曲」
http://cost-off.seesaa.net/article/101794742.html
『S川と再会A〜麻薬中毒者の実態〜』
http://cost-off.seesaa.net/article/79954605.html
『S 川と再会B〜沖縄と北海道〜』
http://cost-off.seesaa.net/article/80113889.html

S川話「きのこの山VSたけのこの里」
http://cost-off.seesaa.net/article/109282137.html
S 川話「北海道レポート・日勝峠越え」
http://cost-off.seesaa.net/article/110764241.html
S 川話「道民&鈴鹿を出る時」
http://cost-off.seesaa.net/article/109702018.html
S川の北海道画像「オンネトー湖」
http://cost-off.seesaa.net/article/156040316.html

【目次】コラム人物編目次part1
http://cost-off.seesaa.net/article/107966008.html


posted by コスト at 21:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 変人話(キモト伝説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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